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全体的な印象と科目別の目標ライン

平澤 本日は、論文式試験の模範解答作りに携わっていただいた講師の方々にお集まりいただき、出題傾向の分析と素点における目標ライン、および今後の論文対策等をお伺いします。

まずは、財務会計論の計算から順番に出題傾向と素点の目標ラインをお聞かせください。

財務会計論(計算)

平易な箇所を確実に!

伊藤 例年どおり、第3問と第5問で計算問題が出題されました。

第3問は基本的な計算問題、第5問は応用的な問題という昨年同様の構成でした。

大原では、応用答練、直対答練、論文模試のすべてでこの形式に従った問題を出題していましたので、大原生の皆さんは想定外の事態もなく、普段通り対応できたのではないかと思います。

第3問では失点をいかに少なくするかの勝負、第5問では部分点をいかに確保していくかの勝負となりました。

第3問の問題1の問1は純資産に関する問題でした。

大原の答練でも十分に対策している形式、内容でしたので、もったいない失点を避けて高得点を狙いたい問題でした。

問題2の問1は個別キャッシュ・フロー計算書に関する問題でした。

特にひねりもないシンプルな問題でしたので、個別キャッシュ・フロー計算書についての基本的な問題を大原の教材で練習していた皆さんであれば、こちらも高得点を狙える問題でした。

第3問の計算部分では解答箇所18箇所のうち12箇所前後の得点を期待したいところです。

第5問の問題1は連結財務諸表に関する総合問題でした。

例年より分量および解答箇所が少ない問題でした。

論点としましては、在外子会社のB社については典型論点のみの出題であり、一方で、A社については仕掛研究開発費の取扱いをはじめとした応用的な論点を含む出題でした。

したがって、A社についての応用的な論点が関係する解答箇所、具体的には問1の①②、問2の③④、問4の①③⑥は得点できなくても問題ありませんので、それ以外の解答箇所でどれだけ得点できるかが勝負の分かれ目であったといえます。

第5問の計算部分では問1~問4の解答箇所18箇所のうち7箇所前後を得点できていれば合格水準に達すると思われます。

平澤 どうもありがとうございました。

それでは理論のほうはいかがでしたか。

財務会計論(理論)

簡単で高配点の問を狙い撃て

折原 計算理論の比率は例年通りです。

また、昨年同様、第5問では会計学の名に相応しい計算と理論の融合問題が出題され、受験生のみなさんは対応に苦労したと思います。

第3問の問題1の問2の株主資本等変動計算書について、利益処分計算書や連結剰余金計算書からの移行理由を、知っている受験生はいなかったと思います。

問題2の問2の連結キャッシュ・フロー計算書は、非資金取引という注記がテーマだったのでほとんどの受験生が準備をしていなかったでしょう。

しかし、①の除く理由は、非資金取引という名前の通り、キャッシュ・フローを伴わないですから正答可能です。

②の将来キャッシュ・フローに影響するという点が書ければ、若干有利になります。

③の正答は不可能でしょう。

総じて、第3問の理論問題は、3割程度の得点を期待したいところです。

第4問の問題1の問1(1)は念のため法令基準集を参照しながら解答すべきでした。

(2)は解答行数が多く埋めるのが大変だったと思います。

実現の2要件と、売却に事業上の制約がないという指摘ができれば十分です。

問2は基本問題ですが、差がつくと思われます。

問3は応用答練で出題していますので部分点の獲得は容易です。

問題2は問1、問2いずれも基本的です。

基礎答練から的中もあったので得点を稼ぐべきポイントです。

問題3の未実現利益の消去に関する税効果は、問1の金額は容易に正答可能です。

問2は、論文総まとめの問題を思い出して差異発生年度の税引前利益と税金費用の対応が述べられれば十分です。

総じて、第4問は、5割程度の得点を期待したいところです。

第5問の問題1の問5(1)は、連結基準の時価発行増資の規定を写して手堅く得点をキープしましょう。

(2)は支配を喪失して関連会社となったため、持分法が適用されるという点が指摘できれば十分です。

問題2は4つ中、2つ指摘できれば優位に立てるでしょう。

問題3は、問い方が非常に凝っているので難しいです。

法令基準を探して条件付取得対価を発見したら値千金です。

総じて、第5問は、捻られた問題が並んでおり、時間の制約も厳しいので4割程度の得点を期待したいところです。

最後に計算と理論をあわせた目標ラインですが、第3問は37点、第4問は35点、第5問は28点、財務会計論全体で200 点満点中100 点が目安になると思われます。

平澤 わかりました。

次に、管理会計論はどうだったのでしょう。

管理会計論

正答すべき問題を確実に

二葉 まず出題内容ですが、第1問の問題1が総合原価計算から連産品、問題2が標準原価計算、第2問の問題1が資金管理、問題2が業務的意思決定とABCからの出題でした。

第1問の問題1の連産品はいわゆる論文重点項目ではないため、驚かれた方も多いでしょう。

さらに、計算問題は細かいひっかけポイントがあるため完答は難しいです。

理論問題は実施時に自信は持てないでしょうが、何か書く、ということは可能でした。

第1問の問題2の標準原価計算は、まず計算問題は基本的な問題であり、完答が求められます。

理論問題についても答練で出題しているような基礎的な論点が多く、ある程度の手応えを感じていただけたことでしょう。

第2問の問題1の資金管理は鬼門でした。

計算の指示が複雑すぎて、途中で投げ出してしまった方も多いでしょう。

冷静になれば問1で2ヶ所、問2で1ヶ所は正答が狙えますが、できていなくとも相対的には何ら問題ありません。

理論問題については、財務会計の知識も使って何かしら記述できれば十分でしょう。

最後に、第2問の問題2の業務的意思決定とABCですが、まず問1は業務的意思決定として最適セールズ・ミックスを算定する平易な問題がありました。

その後、ABCの計算に続くのですが、こちらは変動販売費や個別固定費がミスを誘発しやすく、間違えられた方も多いでしょう。

ABCについては、むしろ問2、問3が時間を費やせば十分解答可能な問題だったため、差がつくところになりそうです。

以上のように、第1問の問題1や第2問の問題1といった難度の高い問題と第1問の問題2や第2問の問題2のように解きやすい問題を見極め、典型的な問題を確実に得点できたかどうかが重要です。

目標ラインは100 点満点中40点弱と思われます。

どの問題にどれだけ時間を配分したかにもよりますが、具体的には各問題を25点満点とすると、第1問の問題1で9点、第1問の問題2で16点、第2問の問題1で5点、第2問の問題2で10点が想定されます。

平澤 平易な計算問題を中心に、得点すべき問題を確実に正解することが大切ですね。

次に監査論ですが、論文式試験のトップバッターですので、その後の科目に大きな影響を及ぼす科目です。

いかがでしたでしょうか。

監査論

努力が報われる問題

栗田 今年の監査論の問題は、典型的な知識をもとにした問題が多く、十分に学習していた方が報われるような問題だったと思います。

ただ、解答欄の行数が80行と多かったため、時間が足りないと感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

内容としては、第1問が継続企業の前提、第2問が不正、内部統制報告制度に関する問題でした。

まず、第1問ですが、問題1は、継続企業の前提に関連させて、二重責任の原則について説明する問題、問題3は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況がある場合の対応、問題4が、追記情報に関する問題、問題5が、期末日後に対応策が行われた場合に、当該対応策について後発事象として注記・追記することに関する問題となります。

これらについては、必要な知識は典型的なものとなりますので、ある程度の解答が求められます。

一方で、問題2については、継続企業の前提とリスク・アプローチを関連させて説明する問題で、ご自身で解答を組み立てる必要があったため、第1問の中では、難しい問題だったと思います。

第1問は、この問題2以外の部分で点数が稼げればよいと思います。

続いて、第2問ですが、事例が問題用紙2枚分記載されていたため、戸惑ってしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、問われている内容は、典型的なものであるため、落ち着いて問題文を読むことができれば、解答の作成は難しくなかったと思います。

問題1は、監査基準委員会報告書に記載されている内容ですので、テキストで学習済みであることを思い出し、その規定を探すことができれば問題なく解答できたと思います。

問題2は、事例を踏まえた問題で難しく感じたかもしれませんが、不正リスクを識別したという状況ですので、厳しい手続が必要ということを思い出せれば解答はできたと思います。

問題3は、第2問の中では、解答が作成しづらい問題だったと思います。

特に問1の「重要性」に関する対応は、解答が難しかったと思いますので、「伝達」等に関する問題で、得点が稼げれば十分だと思います。

問題4は、期末日時点において開示すべき重要な不備がある旨の認定をする問題でした。

開示すべき重要な不備であることの認定については、答練で出題済みでしたので、それを思い出し解答を作成していただきかったと思います。

以上より、第1問は5割程度、第2問は、事例が長かったという点を考慮して4~5割程度の点数が獲得できていれば、十分だと思います。

平澤 実力が反映される問題だったわけですね。

次に企業法について、出題形式、内容、受験生の手ごたえはどうだったのでしょうか。

企業法

事例分析の面でやや難度が高い問題

長谷川 まずは、出題形式と内容についての特徴をお話しさせていただきます。

本年度も、近年の傾向に沿って、詳細な事例が設定された上で、登場人物が会社法上の権利を行使できるか、いかなる責任を負うかを中心に問う形式で出題されました。

次に内容面についてですが、第1問の問題1は、債権の現物出資における検査役の調査手続、問題2は、仮装払込みにおける関与者の責任及び権利行使の可否についての検討が求められています。

第2問の問題1は、吸収合併における株主の差止請求権、問題2は、合併無効原因を検討すべき問題でした。

いずれも、短答又は論文答練でよく出題されるテーマであり、その意味では、基本的事項の理解を問う問題であったと言えます。

もっとも、いずれの問題も事例が複雑であったため、受験生の中には、何を検討すべきか戸惑った、あるいは、検討すべき条文(論点)は発見できたが、問題文の事実を十分に活かした論述ができなかったという方が多くいらっしゃったようです。

大原の論文答練では、本試験と同分量でかつ同様に複雑な事例問題を多数出題しています。

解答冊子や解説講義ではその場合の問題抽出方法や事実認定方法を詳細に解説しております。

大原の受験生にとっては、大きなアドバンテージになったと思います。

それでは、以下、問題別にポイントをお話ししていきます。

第1問の問題1は、債権の現物出資に関し、検査役による調査の要否を検討する問題です。

論点は含まれておらず、規制(条文)内容を論述することで足りる問題です。

もっとも、本問の事例が、債権の現物出資であることの認定自体がやや難しいと言えますし、さらに、それが分かったとしても、どの条文に基づくのかを探し出すのが難しかったと言えるでしょう。

本問は、207条9項5号を見つけることが大きなカギとなっています。

弁済期の到来未到来についての処理もその条文に記載されています。

問題2は、まず、本問の出資が「仮装払込み」にあたることの認定が必要です。

厄介なのは、仮装払込みの典型とされる「預合い」や「見せ金」とは事例が異なるという点です。

ここは、資本充実の要請が働く場面であることを指摘し、出資者が十分な資産を有していないという事情を引用して、仮装払込みにあたるとの認定が出来ていれば十分でしょう。

責任等については、213条の2、213条の3、209条2項を発見できれば、あとは事例に丁寧にあてはめて結論を導くのみです。

本小問については、大原の論文模試で出題されており、特に、先に挙げた3つの条文を検討していただくという点ではズバリ的中しています。

大原の受講生の感想として、公開模試での経験を活かして満足のいく答案が書けたという声を多くいただいております。

第2問の問題1は、吸収合併における株主の差止請求権行使の可否を問う問題です。

論点は含まれておらず、差止めの要件を満たすか、事例分析能力が試された問題です。

特に、合併に反対する株主の事情が詳細に問題文に記載されていますから、反対株主の株式買取請求権に配慮した論述が重要です。

大原では、論文答練でこのような「要件あてはめ型問題」への対策を十分におこなってきました。

実際、新株発行差止請求権、吸収分割差止請求権の要件を検討する問題を出題しており、大原生にとっては、考え方、論述の仕方という点で迷うことはなかったと思います。

最後に、問題2は難度の高い問題です。

まず、吸収合併無効の訴えについて、どのような無効原因存在するかを論述すべきことは容易に見当がつくでしょう。

しかし、本問の事例では、典型的な無効原因とは異なり、事前開示書面の虚偽記載や合併比率の不公正をもたらした合併承認決議の瑕疵を指摘すべきことになります。

合併比率の不公正については、それが直接、または総会決議の瑕疵という点から間接的に無効原因となり得る点を指摘していれば十分合格点と言えるでしょう。

以上のように、本年も、例年通りやや複雑な事例をもとに基本的な制度(論点)を問う問題が出題されています。

問題文の事情を十分に活かして結論を導く対応力が必要であることも従来と変わりません。

ただ、本年は例年より事例が複雑で、検討すべき規制(論点)の抽出が難しかったという点で、全体的に「やや難度が高かった」と言えるのではないでしょうか。

もっとも、合格点の獲得という視点で言えば、問題集の問題を地道に暗記し、答練で論述力・事例分析力を鍛えた皆さんにとっては、普段通りの論述ができれば、容易にそれに達するものと思います。

受験生全体で考えた場合、合格ラインは、素点で第1問が23点程度、第2問が24点程度、トータルでは47点程度になると思います。

平澤 事例分析能力が合否を分けるポイントとなったということですね。

ありがとうございました。

さて、租税法ですが、昨年の問題と比較してどのような出題であったのか。

標準的な受講生の出来栄えも含めて、出題傾向を分析してください。

租税法

ボリュームが多く難度の高い出題

真砂 第1問は理論で40点、問題1が事案から税務上の取扱い及び根拠条文を述べる例年と同様の形式で、法人税に関して3つ、所得税に関して1つを問う出題、問題2も例年と同様に5つの設問についての記述の正誤と正しい場合にはその根拠条文、誤っている場合には正しい税務処理及びその根拠条文を記述する形式で、法人税3つ、所得税1つ、消費税1つに関する出題でした。

第2問は計算で60点、問題1が法人税、問題2が所得税、問題3が消費税の出題でした。

問題のページ数は昨年より3ページ増え今までで一番多い25ページ、答案用紙は8枚と昨年と同様でボリュームが多い出題でした。

第1問の理論問題ですが、問題1の問1は、法人が指定寄附金等を支出した場合の取扱いが出題されました。

全額が損金算入されます。

計算の知識で解答できる問題でした。

問2は、外国子会社からの配当金に関する出題でした。

外国で支払配当金の全額が損金算入されているケースは、国際的二重課税になりませんので受取配当金は益金に算入されます。

論文総まとめ講義において、この規定の説明をしてポイントを板書しています。

できてほしいところです。

問3は、内国法人が国内の土地を非居住者から購入した場合における購入した内国法人側の取扱いが出題されました。

購入した内国法人は所得税の源泉徴収義務が生じます。

法人の取扱いで所得税法の内容を解答する出題でした。

難度が高くできなくて結構です。

問4は、使用人兼務役員に対する使用人分給与に関する出題でした。

使用人兼務役員の使用人分給与は、法人税法第34条第1項から除かれ、同法同条の第2項に該当し、不相当に高額な部分の金額は損金不算入となります。

使用人兼務役員は、使用人ではなく役員です。

直対答練第2回で類似問題を出題しています。

できてほしいところです。

問題2は、事例から法人税、所得税、消費税の取扱いを理解しているかを問うものでした。

①は、法人税の益金の額に関する基本的な内容の出題でした。

できてほしいところです。

②は、法人税の適格株式分配に関する被現物分配法人側の取扱いでした。

配当金規定の根拠条文である法人税法第23条及び第24条を確認できれば、結論は導きだせると思います。

③は、所得税の棚卸資産の自家消費に関する出題でした。

計算の知識で解答できる内容です。

できてほしいところです。

④は、法人税の欠損金の繰越控除に関する出題でした。

欠損金を有する法人を買収等して課税所得を意図的に減らす行為を防止するための規定ですが、難度が高くできなくて結構です。

⑤は、消費税の特定期間における納税義務の免除の特例に関する出題でした。

正誤はできてほしいところです。

計算問題のボリュームが多かったため、時間的に厳しかったと思います。

第1問トータルで概ね45%程度の得点をしていただきたいところです。

次に第2問の計算問題ですが、問題1法人税の問1の総合問題は、基礎的な内容が多く含まれていた減価償却、交際費等、寄附金について得点をしてほしいところです。

また、受取利息及び受取配当金等、役員給与、租税公課、源泉所得税等及び外国税については、一部難しい内容が含まれていました。

欠損金に関してはできなくて結構です。

問2は、貸倒損失、中小法人の貸倒引当金に関して出題されました。

貸倒損失は、できてほしいところです。

貸倒引当金はできなくて結構です。

問題1については、45%程度の正解をしていただきたいところです。

問題2の所得税は、問1で事業所得の内訳明細、問2で各所得の金額(不動産、給与、譲渡、一時、雑)、問3で土地建物の譲渡所得における取得費、問4で所得控除(医療費、社会保険料、生命保険料、扶養)が出題されました。

難度が昨年より下がり基本的な内容が多かったため、問1、問2、問4の一部を正解してほしいです。

トータルで50%程度の正解をしていただきたいところです。

問題3消費税の問1は、ボリュームが多く取引の分類に時間がかかる問題でした。

非課税資産の輸出、社宅利用料収入、スクラップの売却収入の取扱いなどがポイントでした。

なお、特定課税仕入れ(リバースチャージ)が初めて出題されました。

直対答練第4回、応用答練第4回で出題していますのでできてほしいところです。

問2は、仕入税額控除の調整項目である調整対象固定資産の判定及び課税売上割合が著しく変動した場合の取扱いが初めて出題されました。

問題3 については、トータルで25%程度は、正解していただきたいところです。

今回は、第1問の問題2の〇×及び第2問の基本的な部分が正解できたか否かで差がつくことが予想されます。

大原で学習された方は、ボリュームが多く、難度の高い答練を解いていますので、基本的な項目をしっかり正解して合格点を取れると思います。

目標ラインですが、素点ベースで、第1問が45%程度、第2問が40%程度で、ボリュームを考慮して合計で40点程度ではないかと思います。

平澤 ありがとうございました。

さて、近年では用語問題が多く問われる傾向にあるといわれる経営学ですが、今年はいかがでしょうか。

経営学

ファイナンスは高得点を狙える

松下 例年通り、第1問が組織論・戦略論、第2問がファイナンスに関する出題でした。

ファイナンスは、解答箇所が昨年の30個から25個に変更となっております。

まず第1問についてですが、 問題1はアメリカ経営学説を中心に問われました。

問1の階層数と問2・問5の穴埋め問題を確実に得点していただき、問3および問4で部分点をとれれば十分といえるでしょう。

問3の「分化」については、Cランク論点でしたが、ポケットコンパス掲載論点でしたので、ここまでおさえていた方は他の受験生に差をつけられたのではないでしょうか。

また、問4については、試験委員の佐々木先生の著書に「適応は適応力を締め出す」という表現が紹介されており、その中で「慣性が大きくなる」という表現を用いられていますが、組織文化の論点を利用して、「思考や行動パターンが均一化する」という趣旨で記述しても良いでしょう。

次に問題2ですが、アメリカ経営学説、動機づけ理論、リーダーシップ理論に関する出題でした。

問4のリッカートのシステム4の特徴と問6の期待理論の記述で確実に得点していただき、その他の穴埋め問題については、いくつかとれれば十分でしょう。

なお、期待理論については、ブルームの期待理論の枠組みで記述しても良いですし、新試験委員対策で扱ったポーター&ローラーの枠組みで記述しても良いでしょう。

以上より、大原でしっかり学習をされていた方は、問題1の問1・問2・問5と、問題2の問4と問6は自信を持って解答できたのではないかと思います。

また、これ以外の問題についても得点することが可能でした。

続いて、第2問についての総評となります。

問題1は、プロジェクトの評価及びリアルオプションに関する出題でした。

問1については、管理会計で扱っている論点ですので、確実に得点したいところです。

これに対して、問2のリアルオプションについては、問2-3の延期オプションの選択はできてほしいところですが、それ以外の計算についてはできなくても良いでしょう。

問題2は、CAPM及び企業財務論に関する出題でした。

問1の加重平均資本コストは正解していただきたいところです。

これに対して問2以降はファイナンスの理解度などにより大きく差がでるところと考えます。

具体的な知識として、「ベータ値は株式だけではなく、ありとあらゆる資産につきベータ値を算定できる」「市場ポートフォリオのベータ値は1である」「ポートフォリオのベータ値は各証券のベータ値を加重平均することにより算定できる」といった点があげられます。

公開模試第1回で「ポートフォリオのベータ値は各証券のベータ値を加重平均することにより算定できる」という出題をしておりましたので、この論点を思い出せた方は正解できたかもしれません。

問題3は、債券評価に関する出題でした。

基礎答練第1回および直対答練第2回で出題しておりました。

コンベクシティについては、総まとめレクチャーで取り上げ、直対答練第2回でも出題しておりました。

こちらは満点も狙える問題といえます。

問題4は、オプションに関する出題でした。

こちらについてもオプション価格の決定変数については、直対答練第4回で出題しております。

また、複製ポートフォリオによる解法は、基礎答練第3回や応用答練第2回において出題しております。

さらにオプションの合成については、総まとめレクチャーで取り上げ、直対答練第1回で出題しております。

以上より、問題4も満点が狙える問題といえます。

以上より、これまでしっかり学習されていた方は、その努力が報われる問題だったといえます。

以上を踏まえて、目標ラインについては、大原での通常の答練時と同じ基準で採点することを前提にすると、素点ベースで第1問が28点程度、第2問が33点程度と考えられます。

合計点での目標ラインは、6割程度になるのではないかと予想します。

平澤 経営学は6割程度が目標ラインとのことですが、経済学はどうでしょう。

計算問題が多いため、解ければ高得点に結びつくと思いますが。

経済学

ミクロは難化、マクロは易化

平野 過去3年間大幅に平易化された出題傾向が今年は一部変化した印象です。

ミクロは文字式の計算が復活し、一昔前なら基本的と言える計算問題が量的にも適度に出題されていました。

結果、現在の傾向からみれば去年より難化した形になり、面食らった人も多いかと思いますが、一部の応用問題を除けば内容的にはいつもの答練通りですので、落ち着いて解ければそれなりに対応できたのではないかと期待しています。

一方、マクロは逆に去年よりもさらに簡単になりました。

全てシンプルで素直な基本問題ですので、答練できちんと練習していれば、自ずと高得点はもちろん満点も十分可能です。

結局、マクロで高得点を確保しつつ、ミクロのデキ次第で差が生じるような出題であったと言えそうですので、以下、特にミクロを中心に設問ごとの簡単なコメントを述べたいと思います。

第3問ミクロの問題1は家計の効用最大化問題です。

加重限界効用均等の法則とおなじみのコブ=ダグラス型効用関数ですので、基礎答練第1回などを復習していれば大丈夫。

問題2は課税の計算問題。

応用答練第2回などを復習していれば大筋では大丈夫でしょうが、問1の税収最大化と問2の巨大な税率に自信を持てるかどうか。

問題3はおなじみの需要の価格弾力性です。

直対答練第2回などを復習していれば、問1~問4までは多少の間違いはしても大筋では大丈夫でしょう。

問5はかなり数学力が要るので埋没ですね。

問題4の問1は独占の基本問題ですから問題ないでしょう。

問2はクールノー複占の典型的な計算問題です。

直対答練第3回などで復習していれば計算間違いの心配のみで解答方針は大丈夫でしょう。

問3のクールノー寡占は問2を拡張すればすぐに解けますが、できなくても構いません。

第4問マクロの問題1は(1)マネーサプライ、(2)フィリップス曲線、問題2は(1)成長会計、(2)ディマンド・プル・インフレーション、及び問題5はライフサイクル仮説でしたが、これら全て極めて基本的ですので絶対に落とせません。

問題3は問1が実質GDP成長率、問2が°45線モデル、問3がストック調整原理、問題4はISLMモデルでした。

いずれも基本的な計算問題ですから、多少混乱することがあったとしても大部分は正解したいところです。

以上を考慮した結果、目標ラインはミクロ約60%、マクロ約90%、合計で約75%と見ております。

平澤 経済学はミクロについては大幅な平易化が底を打って反転したということですね。

今年の民法の問題は、昨年と比べどうだったでしょうか。

民法

典型論点が出題される傾向が定着した

野附 民法は、出題形式、答案用紙等の形式は例年と同じでした。

第5問、第6問とも事例問題で、それぞれに小問があり、答案用紙は各問に2枚ずつ、合計4枚でした。

今年は、第5問の問題2は、更に問1、問2の小問2つに分かれていましたが、第6問は問題1、問題2のみという形式でした。

内容については、全体の7割程度が典型論点、残りの3割が応用問題の出題でした。

ここ数年の傾向として、小問のうち少なくとも半数は典型論点から出題されるという傾向が定着してきたと言えるのではないでしょうか。

第5問の問題1は、土地に抵当権が設定され、その当時土地上に存在した従物が売却され抵当地上から搬出された場合に、抵当権の効力が及ぶかが問われました。

この点は、370 条の付加一体物に従物が含まれるかという問題に関連します。

この点は、いくつもの見解が対立している難しい問題ですが、大原ではテキストで対立点を詳細に解説するとともに、お勧めの見解も紹介しています。

また、上級レクチャーでも詳しく解説致しましたので、大原生の方は、しっかり解答できたのではないかと思います。

問題2は、法定地上権からの出題でした。

問1は、土地と建物に共同抵当権が設定された後に、建物が再築された場合に、法定地上権が成立するかが問われました。

この問題は、平成9年2月14日の最高裁判例に類似するかなり難しい問題です。

判例は、1番抵当権者の利益を考慮して、特段の事情がない限り法定地上権の成立を否定しています。

問2は、応用問題です。

参考判例と考えられる平成19年7月6日の最高裁判例は、1番抵当権が消滅した場合には、2番抵当権者の利益を考えれば良いとして、法定地上権の成立を肯定しています。

問題2は非常に難しかったと思いますが、大原では、直対答練第2回で、本試験とほぼ同様の事案で出題していますので、大原生の方はアドバンテージを取れたのではないかと思います。

第6問の問題1は、定期預金債権を担保に貸付けをしたところ、貸金の債務者が定期預金債権の債権者と別人であったといういわゆる「預金担保貸付と相殺」が出題されました。

判例は、銀行が貸付時に善意無過失であれば、478 条の類推適用により相殺の主張を認めています。

この論点も、テキストで詳細に解説しており、上級レクチャーでも解説致しましたので、大原生はしっかり記述できたのではないかと思います。

問題2では、誤振込金の返還請求と預金債権の成否が出題されました。

この問題について平成8年4月26日の最高裁判例は、振込依頼人と受取人の間の原因となる法律関係の有無にかかわらず、受取人は預金債権を取得する。

振込依頼人と受取人との調整は、不当利得返還請求権によるものとしています。

以上をまとめますと、今年は、昨年よりも若干難度が上がりましたが、大原生は、レクチャーを聞いて答練の復習をしっかりしておけば、アドバンテージを得られたと思いますので、第5問で25点、第6問で20点、合計で45点ぐらいが目標ラインと思われます。

平澤 ありがとうございました。

さて、今年の統計学は、昨年と比べていかがでしょうか。

統計学

易問が少し減った

井口 今年の統計学は、易しい問題が減り、そのぶん、中ぐらいの難しさの問題が増えました。

昨年よりも少し難しいため、平均点は55点、合格ラインは59点と予想します。

個々の問題を見ていきますと、まず、第7問の問題1は記述統計の問題でした。

論述量の多い問題ですが、ほとんどの受験生は、論述問題に満足のいく解答を書けないものです。

論述以外で正解すれば、全く問題ありません。

第7問の問題2は、確率の問題でした。

基本問題です。

確率が苦手な受験生にも、着実な得点が望まれます。

第7問の問題3は、寄与度を主要テーマとする問題でした。

寄与度は、昨年から試験範囲に入った新論点です。

大原では、基礎答練と直対答練で出題しています。

答練どおりに解答すれば、数値を合わせることは容易です。

第8問の問題1は、区間推定の問題でした。

問2の(1)(2)のうち片方でも解ければ有利になりますが、(2)は、大原の答練では定番の問題です。

大原生は、(2)を解いてアドバンテージを得られたのではないかと思います。

第8問の問題2は、検定の典型問題でした。

検定の記述問題は多くの受験生が苦手とするところですが、大原では検定の記述対策に力を入れています。

ここでも、大原生の優位を期待しています。

第8問の問題3は、重回帰分析の問題でした。

本格的な出題は約10年ぶりで、大原の答練でも年々重要度を下げてはいましたが、基礎答練と直対答練で、基本問題を解く機会はきちんと設けています。

問3、問4は難問なので、基本問題である問1、問2を完答することができれば、それだけで他の受験生に差を付けられると思います。

平澤 ありがとうございました。

皆さんのお話から、今年は、監査論のように典型論点でも要求される答案行数が多く時間が足りないと思われる科目、租税法のようにボリュームないしは解答箇所が多くスピードが要求される科目、また、財務会計論(計算)や管理会計論のように基礎的な内容と難解な問題の双方が出題され、解答に当たって極端な戦略を取らねばならなかった科目、財務会計論(理論)や企業法のように事例形式の問題が出題され、現場思考が要求された科目、さらに経済学や統計学のように難度が高まった科目もあったようです。

しかし、全般的には、基本的な理解を問うことに重点を置く出題傾向であったことが分かります。

次年度の論文対策のあり方

平澤 そこで、この様な出題傾向を踏まえて、これから公認会計士試験を目指す方々へ先生方からアドバイスをお願いします。

財務会計論(計算)

基礎力の強化を!

伊藤 4年連続で、第3問は基本的な問題、第5問は応用的な問題という構成でした。

この傾向が続く場合であっても、仮に傾向が変わる場合を想定しても、基本的な問題での確実な正答が重要になります。

応用的な問題に合わせた対策は費用対効果が良くなく、部分点勝負となるため大きな差がつきにくいのですが、基本的な問題は努力が報われやすく、また本番でも非常に差がつきやすいです。

応用的な問題ばかり練習していれば簡単な問題にも対応できるわけというわけでは決してありません。

応用的な問題に振り回されることなく、答練や問題集の問題を繰り返し解くことがとても重要です。

また、問題演習を通じて気になった箇所はテキストに戻り、知識を体系化しておくことも必要です。

基本的な問題の得点力を磨いておけば、応用的な問題に対しても冷静に対処できるようになるでしょう。

平澤 ありがとうございました。次に財務会計論の理論の学習について、アドバイスをお願いします。

財務会計論(理論)

問題集&答練でグングン得点力アップ

折原 本試験では、多種多様な問題が出題されますが、死角を無くすために各予備校の分厚いテキストを軸に学習することは現実的ではありません。

大原の理論テキストは480 ページありますが、論文対策用に覚えるべきポイントは問題集の本編(約80ページ)で網羅していますので、主要論点の精度を短時間で劇的に高めることができます。

問題集をベースにし、トピック項目を答練で上乗せすれば、財務理論の対策としては十分です。

平澤 次に、管理会計論は今後どのような対策が有効でしょうか。

管理会計論

日頃の努力と継続した受講

二葉 まずは、土台となる計算力の養成が不可欠です。

時間に制約があり、また、難度の非常に高い問題が出題されてくるとなると、正答すべき平易な問題を確実に正答できなければなりません。

日頃の練習量がそのまま結果に結びつくところと言えるでしょう。

理論問題については、まずは典型論点について定義、目的、特徴、登場の背景をおさえることが重要です。

そのためにも、レクチャーを受けて論点を把握・整理し、ご自身でしっかりテキストを読むことです。

さらに、答練を毎回必ず受講し、解説を聞いて復習をすることで、本試験における現場対応力を醸成することが重要です。

また、時間配分や難しい問題が出題された際の対応力も身に着ける必要があります。

こちらは論文答練や論文公開模試を実施時に本番さながらの意識で受講いただくことが大切です。

平澤 監査論については、今年は、解きやすい問題が出題されたようですが、今後の論文式対策としてはどのような対策が必要でしょうか。

監査論

典型論点を確実に

栗田 今年の問題のように、これまでの努力や実力が反映される問題を来年以降も出題していただきたいですが、試験傾向がどのようになろうと、典型的な知識を押さえなければならないということは変わりません。

なんとなく解答してもなぜか高い偏差値が取れるのは、他の受験生がなんとなくしか解答できない問題だけであるということを認識し、確かな実力を身に着けていただきたいと思います。

そのために、テキスト、問題集、答練を繰り返し確認してください。

平澤 企業法の今後の論文式試験対策を教えてください。

企業法

事例分析力、条文発見力の向上を!

長谷川 本年度もそうであったように、近年の論文式試験では、やや複雑な事例が提示され、その中で問題となる点を法的に分析する力が必要とされています。

もう少し具体的に言いますと、いかなる条文(制度)が問題となっているかを的確に判断し、その条文適用に必要な要件をピックアップし、問題文の事例の中でどのような事実がその要件にあてはまるのかを判断する必要があるということです。

したがって、論点の学習はもちろん重要ではありますが、条文・要件をピックアップする力、事実を要件にあてはめる力も同時に養っていく必要があることになります。

もちろん、そのような力をつけるには、基礎的知識がしっかりとしているという土台があってこそです。

知識に基づかずに技法ばかり習得しても、内容の伴った論述は不可能です。

したがって、今後の論文式試験に対する対策においては、日頃のレクチャーやテキスト、問題集での基礎固めの重要性を再認識していただくと同時に、答練・模試における実践により解法の経験値を積み上げるという意識を持って受けていただくということが重要になると考えます。

平澤 次に租税法ですが、どのような対策を講じていけば宜しいでしょうか。

租税法

計算基礎力のアップと理論基礎の理解

真砂 まず、法人税を中心に、所得税、消費税の計算の基礎を固めて、しっかり得点できる実力をつけることが必要です。

所得税や消費税の計算も疎かにせず基礎はできるようにしてください。

基礎学習として計算構造を理解することは重要です。

法人税と所得税に関しては、法人が取引を行った場合と個人が取引を行った場合の税務処理の違いを押さえることが重要です。

また、消費税は課税、非課税、輸出免税、課税対象外(不課税)の区分がポイントになりますので、テキストの内容をしっかり押さえることが重要です。

理論は計算で学習した知識を基に、理論としての各規定の内容や趣旨及び考え方を理解することが必要です。

また、事例に対する各税法(法人税、所得税、消費税)上の取扱い及び根拠条文の指摘ができるように理論対策及び論文総まとめレクチャーを受講し、これらのテキストの事例問題や答練問題をしっかり確認することによってレベルアップを図ることが有効な対策になると思います。

平澤 次に選択科目の対策についてお伺いしたいと思います。まず、経営学からお願い致します。

経営学

テキスト掲載論点を優先して仕上げる

松下 経営学に関しては、「組織論・戦略論」と「ファイナンス理論」から出題されるというパターンが、今後とも続くと予想されます。

「組織論・戦略論」の分野については、出題範囲が極めて広範に渡ります。

また、本年度も昨年度に引き続き、短文形式の出題がありましたので、来年度に向けて、記述対策が必要となるでしょう。

だし、“記述対策”といっても、2行~3行(字数にして70字~ 100字程度)の説明ができれば良いわけですから、深く掘り下げて理解する必要はありません。

テキストに掲載されている項目について穴を作らず、ポイントだけでもおさえていく、というスタンスで学習していくことが大切になるのではないかと思います。

また、用語の穴埋めの比率が増したこととともに、用語の定義を記述させる問題が毎年出題されています。

これらについては、ポケットコンパスを利用して、AランクとBランクの用語について、専門用語の名称だけでなく、定義も書けるように暗記することが重要となります。

「ファイナンス理論」については、用語・概念の意味とグラフ、計算をリンクさせながらマスターしていくという、基本スタンスを崩すことなく、学習してください。

特に計算については、いたずらに計算パターンを暗記するのではなく、行っている計算がどのような意味を持っているのかを理解しながら学習していくようにすると、少し違った角度から問題が問われた場合でも、対応することができます。

計算の意味を理解しようとする際には、グラフを書きながら、計算した数値がグラフのどこに位置づけられるのかといったことなどを通して考えていく癖をつけることが効果的です。

平澤 先ほど経済学はミクロについては極めて簡単な傾向が底を打って反転したと伺いました。

来年に向けての対策はどうお考えでしょうか。

経済学

シンプルな計算と図解で論点の本質を

平野 先ほど申し上げました通り、ミクロは文字式メインとなり、多少数学チックな応用問題も出題されるようにはなりましたが、おさえておくべき必要十分な理解の内容には何ら変更はございません。

したがいまして、受験生の皆さんの来年の対策も、原則としてこれまでと変更はなく、大原の答練で出題される基本的・典型的でシンプルな計算・記述・説明問題を一つひとつ着実につぶしていくことです。

その際、図解とともに原理原則から正確に理解し、「要するにこういうことだ」という本質を見極めていくこともこれまで通りです。

そして、その度合いが高い人ほど、より高い「差別化」すなわち「偏差値」が得られると思われます。

例えば、むしろ今年のような本試験においてこそ、そのような対策をしていた人により大きな効果が表れたはずです。

一方、ひたすら計算力のみを磨く努力は必要なく、基本的な計算のみ正確に実行できるようにしておけば必要十分であることにも変わりはありませんが、具体的な数値よりも文字式をメインにする必要はあるでしょう。

平澤 民法は、ここ数年、基本的事項や典型論点が中心の出題とのことですが、来年度の準備として、受験生はどのようなことをしたらいいでしょうか。

民法

基本的事項や典型論点の正確な理解を

野附 先ほどもお話ししましたように、今年の本試験では、7割は基本的な事項や典型論点が出題されました。

今後の対策としては、学習する対象を基本的事項や典型論点中心に絞り込むと同時に、一つひとつの正確な理解を心がけることが必要です。

正確な理解のためには、①テキストの該当箇所を丁寧に読むとともに、②どのような場合にどのような問題点が生じるのか、その事案だとどうしてその点が問題になるのかについて、問題集や答練の問題の事案をよく読んで問題の所在を把握することが大切です。

また、注意しておきたい点として、基本的事項や典型論点は、どの論点もいつ出題されてもおかしくないという気持ちで、学習することが大切です。

一般には過去2・3年内に出題された論点は優先順位を下げて学習する傾向がありますが、10年間のうちに4回出題されている論点があるように、それは危険です。

そして、もう一点、答練の重要性を強調したいと思います。

大原では、判例等を分析し、試験委員の先生方が関心を寄せられているであろう分野から答練を出題するように工夫をしており、今回もその成果が表れました。

答練を受けることで、知識を確認するだけでなく、現場思考能力も身につけていただきたいと思います。

平澤 統計学は昨年よりも難しかったそうですが。

統計学

とにかく、ゆったりとした気分で

井口 まあ、少し難しくなった、という程度のことでして…。

誤差の範囲内です。

平均点が70点を超える年もあれば、60点を下回る年もある。

他の科目と同様、難度は年によって異なります。

ただ、難度は変わっても、ここ9年、分量は変わっていません。

2010 年以降、2時間で容易に解き終わる分量が続いています。

その割に平均点が高くないのは、計算ミスが原因です。

これは、受験生の答案を見てみて、よくわかりました。

普段の成績が良い受験生でも、当日は、かなりあせっているようです。

受験生には、とにかく、統計学の試験をゆったりとした気分で受けて欲しいと思います。

式を全て計算用紙に書いてから電卓を叩く、これでちょうどいいくらいです。

日々の答練の中で、計算ミス軽減のために色々な方策を試すことが、本番での得点力につながると思います。

各科目の学習指針

平澤 各科目の先生方に、今年の出題傾向から来年へ向けての対策をお話いただきました。

科目ごとに今年の学習指針をまとめると次のとおりです。

● 財務会計論(計算) 答練を繰り返し解きながらテキストを確認し、基本的な問題の得点力を養うこと。

● 財務会計論(理論) 問題集と答練を確実に正答できるようにすること。

● 管理会計論 基本的な問題を確実に解答できるようにし、答練を通じて本番を意識したアウトプットをすること。

● 監査論 テキスト、問題集、答練をバランスよく学習し、典型論点を確実にすること。

● 企業法 問題集だけでなく、必要に応じてテキストに戻り、基本的な知識を確認すること。そして、答練を通じて、現場対応力や事例分析力を高めること。

● 租税法 法人税、所得税、消費税の基礎的な計算問題を反復練習し、確実な実力を身につけ、理論は法人税、所得税、消費税の各規定の重要項目の取扱い及び根拠条文を中心に押さえていくこと。最後は必ずテキストに戻り確認すること。

● 経営学 ファイナンス理論と戦略論・組織論のそれぞれについて、テキストに掲載されている論点を優先して仕上げていくこと。

● 経済学 大原の答練をベースにした基本的・典型的問題の反復学習のみで必要十分。

● 民法 細かい論点には手を伸ばさず、基本的な制度や典型論点の正確な理解を心がけること。

● 統計学 基本用語の定義をきちんと理解すること。計算ミスをしないよう、日頃の答練も、ゆったりと解くこと。

平澤 先生方には、模範解答作りでお疲れのところ、長時間お付き合いいただきまして誠にありがとうございました。これで平成30年の論文式試験の座談会を終了いたします。

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